クラウド文書管理システムを選択・導入する方法
業界や業務モデルを問わず、企業活動にはコンテンツが必要です。従来のコンテンツ管理では、プリントした紙をファイルフォルダに格納してキャビネットに保管する、データをローカルのITインフラに保存する、あるいは、その両方を併用するのが一般的でした。しかし、91%の企業がデジタルファースト戦略を採用している昨今では、競争力を維持するためにはクラウドベースの文書管理システム(DMS)への移行が不可欠です。
クラウドベースの文書管理システム(DMS: Document Management System)とは、従来の電子文書管理をクラウド上で行うシステムをさします。Webベースのツールであり、文書の保存・管理、文書へのアクセスを、さまざまなデバイスから一元的に行うことができます。他のアプリケーションとの統合が可能なものも多く、組織全体の単一の情報源としての役割を担います。
迅速なROIをめざすには、適切なクラウドDMSを選択することが重要です。しかし、それだけでは十分ではありません。DMSのスムーズな導入も、極めて重要な要素となります。クラウド文書管理システムの導入を成功させるための10のステップをご紹介します。
クラウド文書管理システム導入のための10のステップ
クラウドDMSの導入は多少の煩雑さを伴います。以下に手順を説明します。長期的な優位性の確保にお役立てください。
- 文書管理の要件を明確にする
DMSの選択にあたっては、とりあえずいろいろな製品を試してみたいと考えるかもしれません。しかし、なぜ必要か、どのような機能が必要かなど、要件を整理せずにあれこれ試しても、結局どれを選べばよいのかわからなくなってしまいます。まず、DMSが必要な理由を整理することから始めましょう。
DMSの必要性、必要な理由を知るには、次のような問いが効果的です。
- 文書管理の導入によって達成したい目標は何か?
- 文書管理に関して、組織内にどのような課題があるか?
- どのような業界基準や法規制が適用されるか?
- 日々の業務で他にどのようなアプリケーションを使用しているか?
- 従業員は普段どこで仕事をしているか?ハイブリッドワーク、リモートワーク率が高いか?
- 予算はどれくらいか?
- DMSを最も頻繁に利用するのは誰(どの部署)か?
- 業務の効率化に特に重要な機能はどれか?
組織内でフォーカスグループを構成し、導入のための事前計画を推進することをお薦めします。フォーカスグループのメンバーは、管理者やIT担当者、各部門長、新たなテクノロジーの導入について持論を持つ従業員など、組織全体から、片寄りがないように選ぶとよいでしょう。導入による影響を受ける従業員の意見を聞くことで、「必要な機能」「あるとうれしい機能」など、機能の優先度が明確になります。
- クラウドベースのDMSを選択する
候補となる各DMSの機能を比較し、ニーズに最も適したものを選択します。充実した機能を備えた、文書の管理・統制を包括的にサポートするソリューションを選択することをお薦めします。
検討すべき機能には次のようなものがあります。
- 拡張性:クラウドコンピューティングソリューションは柔軟性が高く、ニーズの変化に応じたストレージのアップグレードや新機能の追加が可能。
- バージョン管理:各文書の変更履歴を複数維持・管理することで、情報の矛盾を軽減し、ストレージシステムの容量を節約できる。
- コラボレーションツール:クラウドベースのDMSでは、複数のユーザーが同じ文書を同時に編集できるため、効率のよいコラボレーションが可能になる。
- モバイルからのアクセス:DMSのなかにはモバイルアプリからのアクセスが可能のものもあり、外出中でも業務効率を維持できる。
- セキュリティ機能:コンテンツを保護するためのセキュリティ分類、認証・アクセス管理、ファイルのロック、データ暗号化などの保護機能が実装されている。
- モニタリング機能:パフォーマンスを24時間365日監視することで、DMSを継続的に評価し、調整の要否を判断できる。
- サードパーティのアプリとの統合:社内データを一元管理して業務効率を上げられるよう、社内で利用している技術スタックに含まれる他のアプリケーションと統合可能なDMSを選択することが重要。
多くのDMSが購入前に試せるサービスを提供しています。適宜利用するとよいでしょう。無料トライアルやライブデモでシステムの機能を確認することで、候補を絞りやすくなります。
- 導入計画を立てる
詳細なロードマップを作成し、導入の成功をめざします。スケジュールに沿った進捗管理がしやすくなり、スコープがコントロールされずに拡大する「スコープクリープ」を防止できます。
計画に含めるべき主な項目には、次のようなものがあります。
- 提供物:選択したDMSと、導入の総コストを記す。
- 目標:DMSの導入で達成したい目標を具体的に記す。目標と達成状況を常に意識できるため、導入が成功しやすくなる。
- タイムライン:導入プロセスの開始日と終了日を記す。具体的な日程が未定の場合は、プロジェクトの大まかな期間を決める。
- 見込める成果:導入によって見込めるメリットを示すことで、ステークホルダーを味方につける。
- 起こりうる課題:導入中に起こりうる課題と、課題の解決方法を記す。
- 社内への影響:導入の影響を大きく受けるのは誰か、どの部署かを明らかにし、トレーニングなどの手段を通じていかにしてサポートするかを説明する。
上記の情報を計画書に詳しく記し、プロジェクトの関係者全員が容易に閲覧できる状態にしておくことが重要です。このような情報を公開することで、全員が認識を共有しやすくなり、組織としての説明責任も果たすことができます。
- DMSを設定・カスタマイズする
多くのDMSプラットフォームは、ある程度のカスタマイズが可能です。ニーズにあわせてカスタマイズするとよいでしょう。
カスタマイズの例として、次のようなものがあります。
- ワークフローの設定:ワークフローを自動化することで、コンテンツのライフサイクル管理、業務効率の向上、重要なプロジェクトの遅延防止に役立つ。
- 文書の種類:扱うコンテンツのタイプに最適なDMSの使用方法を定義する。
- メタデータ:一部のクラウドDMSでは、メタデータのカスタマイズをサポートしている。メタデータは、コンテンツの整理を効率化し、制御性を強化し、検索を容易にする。
- ガバナンスポリシー:DMSによっては、コンテンツ保持ポリシーのカスタマイズをサポートしている。ガバナンスポリシーは、プロアクティブなリスク軽減とライフサイクル管理の合理化を可能にする。
このステップでは、各部門からのフィードバックを募り、ワークフローのニーズを知ることがポイントとなります。ニーズを理解したうえで、ニーズに即したカスタマイズが可能なDMSを選択します。承認されたツールを各ユーザーが自身のニーズにあわせてカスタマイズできることで、シャドーITの防止にもつながります。
- 既存文書を移行する
設定の調整が完了したら、既存の文書を新しいシステムに移行します。このプロセスでは、現行の保存方法が紙の場合はスキャンしてアップロード、電子ファイルの場合はローカルドライブからのインポートが必要になります。
スムーズなクラウド移行を可能にするベストプラクティスをご紹介します。
- インフラの状況を調査:現行システムを詳しく調査し、具体的な文書の種類、分類、メタデータなど、移行対象の全てを把握する。
- チェンジマネジメントを計画:チェンジマネジメントを入念に計画することで、移行に伴う業務やITサービスの中断を最小限に抑えられる。
- クラウドへのコンテンツのマッピング:旧システムから新しいクラウドベースのDMSに移行する項目ごとのマッピングを作成する。DMSによっては、特定のマッピング作業の自動化をサポートすることで時短を可能にしている。
- 移行戦略の策定:コンテンツの移行方法は組織ごとに異なる。ニーズに即した移行ロードマップを作成することで、移行がスムーズになり、ステークホルダーに対するプロセスの説明にも役立つ。
DMSによっては、既存のネットワークのどこからでもデジタル文書をクラウドへ移行できるよう、エンドツーエンドの移行サービスを提供しているものがあります。このようなサービスは、シームレスな移行を可能にし、ステークホルダーの導入プロジェクトに対する理解と協力を得るうえでも役立ちます。このことは、DMSの長期の利用をめざすためにも重要なポイントとなります。
- 社内のトレーニングを実施する
従業員が新しいDMSを最大限に活用できるよう、部署の職務内容に沿った、十分なトレーニングを実施します。多くのベンダーがビギナー向けの教材を提供しています。
ITシステムの利用頻度や習熟度は各人で異なるため、DMSに関する画一的なトレーニングは避けましょう。エンゲージメントを高めて定着率を向上させるには、パーソナライズされた従業員重視のトレーニングプログラムを提供することが重要です。
業務に支障をきたさないよう、トレーニングの要件は現実的なものである必要があります。告知を早めに行い、時間に余裕を持って修了できるような受講期限を設定します。また、各人が集中して取り組めるよう、普段の業務と関連付けた内容のトレーニングを提供することが重要です。
一般的に、長時間のトレーニングを1~2回実施するだけでは、学習内容を全て記憶することは困難です。セルフサービスのポータルやナレッジベースを提供し、必要に応じて復習できる環境を整備しておくとよいでしょう。
- システムをテストする
クラウドDMSの運用を開始する前に、期待どおりに機能するかどうかをテストする必要があります。機能テストで確認すべき重要事項は次のとおりです。
- 他のアプリケーションとの統合ポイント
- カスタム設定の結果
- さまざまなデバイスからアクセスした場合のDMSの挙動
- 特定のユーザータイプとアカウントに対するアクセス許可
- DMS内での各種文書の取り扱い方法
- リアルタイムのコラボレーションと共有の手順
テスト方法の1つにサンドボックスがあります。本番環境から隔離されたセキュアな環境を構築し、開発者がプラットフォームの機能をテストする方法です。APIをサンドボックスに接続し、他のアプリケーションとの互換性をテストすることもできます。
機能テストに加えて、ユーザー受け入れテスト(UAT: user acceptance testing)を実施することも重要です。一部の従業員によるテストを通じて、IT部門が気づかなかった問題の洗い出しを図ります。テストユーザーからのフィードバックは、スムーズな導入に役立ちます。
DMSのテストは、導入前に実施して終わりではありません。導入後に、ある程度使い慣れたあともテストを継続し、全ての機能が期待どおりに動作していることを確認する必要があります。基本的な機能テストを自動化することで、システムの迅速な改善が可能になり、時間の節約につながります。
- 運用を開始する
トレーニングを終え、導入前の十分なテストが完了すると、いよいよ全社的な運用の開始です。「聞いてないよ!」の状況を防ぐため、社内には事前に通知します。
スムーズな運用開始のためのヒントをご紹介します。
- 役割と責任の割り当て:運用開始時の各タスクに関する責任者を決めておき、混乱の回避と順調な進捗をめざす。
- OKRを定義:OKR(Objectives and Key Results、目標と主要な成果)の設定により、方向性を明確にして目標管理を行い、成果の達成をめざす。
- 障壁を解決:運用を開始する前に、残っている障壁を特定し、解決することで、スムーズな運用が可能になる。
- 柔軟性の維持:予期せぬ問題が発生した場合にも対応できるような余地を、運用開始戦略に含めておく。
システムに対する社内の承認を得るためには、メリットを明確に伝えること、質問に対して明解に回答することが必要です。情報をオープンにすることで、組織の各階層からの賛同が得られ、システムの利用を促進できます。
- システムを監視・保守する
新しいシステムは、一度導入すればあとは何もしなくても動き続けてくれるわけではありません。DMSは定期的な監視が必要です。監視することで、適切に機能しているか、利用上の規定が守られているかを確認できます。一般的な監視内容の例として、DMSに関する全ワークフローとプロセスの検証・管理が挙げられます。
利用状況の監視には、次のようなメリットがあります。
- セキュリティの改善:DMSの利用状況を監視することで、日々の業務で見逃されている隠れた脆弱性を発見できる。
- 正確なコスト計算:実際の利用状況を把握していないと、無駄なコストが発生しやすくなる。利用状況を監視することで、通常の業務に必要なコストを明確に把握できる。
- リソース配分の簡素化:監視を通じて、サポートが不十分な領域と過剰な領域を特定することで、リソース配分の最適化が可能になる。
- 俊敏性の向上:監視により、アップグレードのタイミングや、ストレージ容量の整理が必要なタイミングを特定し、容量不足を回避する。
通常の利用状況を総合的に把握するためには、常時(24時間365日)監視が可能なDMSが理想的です。自動化の程度によっては、システムのアップデートや古くなったファイルの削除などのメンテナンス作業が必要になる場合があります。
- フィードバックを募る
DMSを日常的に利用している従業員からのフィードバックを募り、ワークフローを最適化し、社内の協力者を増やします。自分たちの声が重視されていると認識することで、システムと導入の成功を、従業員が自分事として捉えるようになります。
フィードバックの収集には、次のような方法があります。
- 社内アンケート調査:報復への恐れや恥ずかしさから、正直な回答を避ける人も多いため、匿名アンケートで回答しやすくする。
- 提案箱:プロセスの改善や、DMSに追加してほしい機能について意見を持つ従業員が容易に提案できる手段を提供する。
- フォーカスグループ:システムを高頻度で利用している部署や従業員との面談を通じて、システムの実効性を確認する。
- 管理職からの意見の吸い上げ:管理職は、問題があった場合に部下から報告・相談を受ける立場にある。管理職の意見を聞くことで、DMSが各部署のワークフローにどの程度適合しているかについてのインサイトが得られる。
透明性のある企業文化を構築することで、効果的なフィードバックが得やすくなります。フィードバックの評価プロセスを策定しておくことが重要です。提案を採用した理由、却下した理由をきちんと説明することで、従業員からの信頼度が高まります。
コンテンツクラウドがお役に立ちます
Boxのコンテンツクラウドを利用することで、あらゆるコンテンツを単一のセキュアなプラットフォームで管理できます。ファイルの作成、共同編集、共有、電子サイン、分類、保管など、コンテンツのライフサイクル全体の管理が可能です。また、社内外を問わず、誰とでも容易にコンテンツを共同制作できます。フリクションレスな(摩擦のない)、エンタープライズグレードのセキュリティとコンプライアンスは、Boxの根幹をなす概念です。お客さまのコンテンツは確実に保護されます。Boxは、1,500以上のアプリとのシームレスな統合に加えて、Box Signをはじめとするネイティブな機能を豊富に備えています。Boxのコンテンツクラウドは、各ユーザーが最適な環境で業務を遂行できるよう、単一のコンテンツレイヤーを提供します。
コンテンツクラウドは、お客さまの組織全体のゲームチェンジャーとなり、ワークフローを合理化し、あらゆる部門の生産性を向上させます。Boxの導入に関するご相談・お問い合わせを承っております。こちらのページからお気軽にご連絡ください。
**Boxは、高度なプライバシー、セキュリティ、コンプライアンスを備えた製品とサービスの提供に尽力しています。ただし、このブログ記事で提供される情報は、法的助言の提供を意図したものではありません。適用される法律に対するコンプライアンスを検証する際には、お客さまが自らデューデリジェンスを実施することを推奨します。